「自宅で最期まで過ごすことが良いこと」「施設入所は可哀想なこと」というイメージは本当か?

ご質問コーナーです。今日はデイサービスに勤務する看護師さんからのご相談にお答えします。

ご質問

今日、私が勤務するデイに利用していた、認知症の方が来月から急に別な施設に入所されることになりました。

その方に私は出会い今まで以上に認知症ケアに邁進せねばならないと思うきっかけを与えてくださった大切な方です。

関わりの中で家族と上手く関係を築けなくて妄想が出ていました。
でも、それは寂しさからによるもので、家族が関わって下さったら収まると私は考えて再三、一緒に食事を取っていただくようお願いしてました。

しかし、家族には理解して頂けずケアマネも家族の要望ばかり聞かれ対応され、結果、入所でした。
もっと、普通に関わりが出来ていたならこれからもご自宅で過ごして頂けたはず。

でも、結局私の一人よがりだったのでしょう。

帰り際、おばあちゃんから泣きつかれ施設に行きたくないと言われても、わたしにはどうすることも出来ず、一緒に泣くことしかできませんでした。

自分の無力さを痛感し、落ち込んでしまいました。
その方が望むなら出来る限り在宅で過ごして頂けたらと思い活動してきたつもりでした。

私の考え方は間違ってますでしょうか?

ご質問ありがとうございます。この方にお会いしたことがありますが、とっても愛と熱意が溢れる方なので、光景が浮かびました。このように利用者のことを真剣に考えることができるのは、この方の素敵なところだと思います。

昔の私なら「わかりますー、間違ってないですよー、可哀想ですよねー、ケアマネ頑張れよー、家族がんばれよー」とか無責任なことを言って終わっていたと思います(笑)

でも、それでは誰の役にも立ちませんし、今は考え方が変わりました。

この質問をくれた方だけでなく、施設入所に関して罪悪感を感じるデイサービスのスタッフや訪問ヘルパーは多いようです。今回は、施設入所に対するイメージについて考えていこうと思います。

「自宅が過ごすのが良いこと」という先入観がないか?

「最期まで自宅で」というのが、今の医療・介護・福祉の流れになってきていますよね。可能な限り自分の家で長く暮らしたいという高齢者が多いことは事実です。ご質問のケースの場合、「おばあちゃんが施設に行きたいくないと泣いた」ということですから、自宅で過ごしたかったのだと思います。
ですが、これが100%ではない、ということを知っておく必要があります。『施設に入所すること=家族が頑張っていない』というイメージが家族を苦しませている場合もあります。

自宅で過ごすのが幸せで施設に入所するのは可哀想なこと、という先入観が自分のなかにないか確認してみてください。

高齢者自身が施設に対して悪いイメージを持っているのはなぜか?

このケースのように、「施設に入りたくない」と思っている高齢者は多いです。でも、その人たちは施設に入所したことがないはずです。経験したことがないのに、なぜ嫌だと思うのか?ここもイメージだと思います。介護施設も昔とは変わり、熱い想いを持ったスタッフも増えていて、「うちの施設に入ってよかったと思ってもらいたい」と試行錯誤をしながら自分たちの役割を遂行しています。でも、高齢者のイメージはまだ昔の暗いイメージのままなのかもしれません。

実際、施設入所したおばあちゃんが

ここへ来る前は施設に入ることは、人生の終わりだと思っていた。
暗い部屋で毎日過ごすんだと思っていた。だけど、入ってみたら職員さんも暖かくて、毎日体操とか頭のトレーニングとかがあって忙しいくらい。

昔とは違うんだね。入ってよかった!

と言っていたのを聞いたことがあります。

専門職であれば「施設に入りたくない」という言葉だけを鵜呑みにするのではなく、その方の「施設に対するイメージ」「施設に入るとどうなると思っているのか?」などをアセスメントしていく必要があると思います。

家族と離れた方がいい場合も多い

以前のブログにも書いたように、私は家族に対する考え方が普通の人とは少し変わっています。「家族なんだから」という言葉が嫌いです。家族だからといって我慢を強いるのは違うと考えています。

このケースの場合、(実際お会いしたことはないのでご質問のメッセージからの推測です)、家族とうまくいかず寂しさから妄想が出ていた、とのことですが、確かにこれだけ聞くと「おばあちゃん可哀想だな」と思います。

しかし、そこに至るまでの家族の歴史があったはずです厳しい言い方ですが、このおばあちゃんにも家族に優しくしてもらえない原因があるのだと思います。認知症になったから、だけではないはずです。

専門職であっても、家族の歴史には踏み込めない部分、踏み込んではいけない歴史がある、と私は思っています。

家族から離れるだけで妄想がなくなったり、精神的に安定してきたり、笑顔が見られるようになった人もたくさんいます。自宅で家族と過ごすことばかりがいい環境ではないと考えます。

私がこのように考えるようになった理由

最初にも述べたように、昔は私も施設に対していいイメージはありませんでした。しかし、フリーで活動するようになって、本当に熱い思いで介護をしている施設の看護・介護職にたくさん会ってお話を聞き、イメージが変わりました。私が勤めるショートステイでも施設に入所される方がいますが、今は「この人にとってもっといいケアをしてくれるはず」という気持ちになります。施設入所が悪いこと、というイメージは施設で働いている人に対しても失礼ではないかと思います。

まとめ

ご質問の「私の考え方は間違ってますでしょうか?」ということに対しては、間違ってもいないし正しくもない、と返答させて頂きます。いつも言っている通り、正解はないので。ですが、このように一人の利用者の人生に専門職として真剣に向き合う姿は本当に素晴らしいと思います!ありがとうございました。

認知症の人の希望と介護家族の希望が違うとき

2018年7月20日

 

2 件のコメント

  • いつもありがとうございます。

    仕事に使命感を持てることは素晴らしいことです。
    専門職としてどう対応するのかに正解はないと私も感じます。

    こうやって質問できる身近なアドバイザー的な役割を
    果たしていただけるお師匠様に感謝です。

  • まさしく、この問題は介護家族にとっても、施設職員さまがたにとっても、悩みがつきない問題かと思います。
    このように客観的意見をいただけける感謝とともに、
    たくさんのご経験をなさった市村先生は本当にすごいな、と感じます!

    追伸:昨日はありがとうございました!