認知症と食事①認知機能障害が食事に与える影響

シリーズでお伝えしている「認知症ケアにおける食事を考える」の2回目です。

1回目「摂食嚥下のメカニズムと解剖をおさえよう!」

今回は認知機能障害(中核症状)が食事に与える影響をお伝えしていきます。

認知症と食事の関係

人間の行動は脳によってコントロールされています。食事という行動もそうです。認知症は脳の病気ですので、認知症になると、「食べる」という行動に障害が起こってきます

「食べる」という行動は噛んで飲み込む(咀嚼・嚥下)だけでなく

・「食べたい」「食べよう」という認識がある
・食べ物だと認識する
・食べ方がわかる
・道具を使える

といった口に食べ物を入れる前から始まっています。

認知機能障(中核症状)の影響

食事に関係する主な認知機能障害をまとめます

記憶障害

・食べたことを忘れる
・食べ方を忘れる

見当識障害

・今食べている食事がいつの食事なのか(朝・昼・夜)がピンとこない
・次の食事がいつくるのかがわかならい

失認

・食事だと認識できない

空間認識障害

・距離感がつかめない

失行

・箸やスプーンがうまく使えない

口腔顔面失行

・なかなか口を開けられない
・口腔内に食べ物が入っても咀嚼できない

注意障害

・食事に集中できない

このような、脳が健康じゃないことによって起こる影響を知っておくと、認知症の人が困っていることをアセスメントしやすくなると思います。

認知機能障害についてイマイチわからないという人はこちらの記事を参考にして下さい!

認知症の症状「認知機能障害」について

2018年5月15日

認知症の人の食事場面3つの分類:山田律子先生

私のなかで「認知症と食事」と言えば、北海道医療大学の山田律子先生です。その山田律子先生は、認知症の人の食事について、「摂食開始困難」「摂食中断」「食べ方の乱れ」の3つに分けています。

とてもわかりやすいので、認知機能障害と合わせて簡単にご紹介します。

摂食開始困難

・自分で食べ始めることが難しい
食べ物だと認識できなかったり、箸やスプーンなどの使い方がわからないなどが原因となります。

摂食中断

・食べ続けることが難しい
(一度動作が止まると、自分で食事を再開させることが難しくなる)
注意障害や体調の問題が原因となります。

食べ方の乱れ

・適量をすくえない、ペースがはやいなど
箸やスプーン、食器などをうまく使えない、食事の認識が難しくなるなる、などが原因となります。

認知機能障害以外の影響

認知症の症状以外にも、食事に影響を与えるものはたくさんあります。ここで重要なのは、認知症の人はその不具合に対して自分で対応できない、言葉で訴えられない、ということです。うまくSOSが出せなくなってしまうので、こちらの観察が重要になります。

薬物の影響

摂食嚥下に影響を与える可能性がある薬は多くあります。注意が必要な代表的なものを2つ載せておきます。

向精神薬(抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬など)

抗精神病薬を服用している場合は、嚥下反射が低下や意識レベル(ぼーっとする、強い眠気など)、体に力が入らないなど、さまざまな面で影響が出ることがあるので、このような薬を飲んでいる場合は注意が必要です。

精神科の認知症治療病棟にいた頃は、嚥下障害との戦いでした。。

唾液分泌を抑制する薬

抗精神病薬や利尿剤、抗コリン剤などの薬は唾液の分泌を抑えるため食塊を作ることに影響し、むせや窒息などに繋がることもあります。

義歯の影響

「食べる」にあたり、歯は重要な役割を果たします。

噛むだけでなく、飲み込むときも奥歯があることが重要なポイントになってきます。高齢者では義歯の方も多いと思います。義歯がない、義歯が合わない、口のなかに傷がある(乾燥している)などで痛くて義歯を入れていられない、などの問題が食事に影響を与えます。義歯の管理だけでなく、義歯を使いこなせる口を作っておくことが重要です。

まとめ

今回は認知機能障害と食事の関係をまとめてみました。補足のつもりの認知機能障害以外も以外にボリュームが出てしまいましたが、観察ポイントを多く知っておくとアセスメントの材料になると思います。次回は「認知症と食事② 認知症のタイプ別における食事の特徴」をお伝えします。

参考文献

橋下愛著:口から食べるを支える!認知症高齢者の嚥下リハビリテーション,臨床老年看護,vol.22 No.2,P15 日総研出版
山田律子著:認知症の人の食事支援BOOK 食べる力を発揮できる環境づくり,中央法規出版,2013
山田律子著:食事に関する評価とアセスメント 身体機能を中心に,認知症ケアジャーナル第10巻第3号 P246~252 2017.12 ワールドプランニング
松本佐知子著:食べない、異食の要因とケア,臨床老年看護,vol.21 No.4,P59 日総研出版
第7回杉並区医療介護連携研究会 PDF http://www.sgn.tokyo.med.or.jp/carewoker/pdf/renkei_20141011.pdf 

7 件のコメント

  • いつもありがとうございます。
    記憶の機能から始まるシリーズを10月の社内研修資料の
    一つとして使用させていただけますでしょうか。
    どうぞよろしくお願いします。

    もちろん、お師匠様の本ブログのアドレス告知は
    怠りません。

  • 吉村さん、いつもありがとうございます!
    もちろん、使って下さい!!
    アドレス告知、有難いですーーー

  • いつも拝読させていただいてます。

    私は老健で10年勤務し現在は有料とグループホームで
    働く看護師です。

    突然の質問ですいません。
    認知症と糖尿病を患われている利用者さまですが
    すぐにお腹がすいたー!と訴えられます。
    飲み物でも納得はされますが、すぐに訴えがあり
    何もないと機嫌が悪くなり大声で叫ばれます。
    職員も日中は対応して、話を聞くことができるようですが
    就寝介助の時間などは人がいなくなり対応に困っています。

    食事形態も刻みトロミなので、こんなとき
    どうしたらいいのか。
    唐突で申し訳ありませんが
    アドバイスいただけたらと思います。

  • コメントありがとうございます。
    「これをやったら解決できる」という方法はないと思います。またコメントを読ませていただいて、ベストな対応されているのかなと思います。別の記事でも書いていますが職員が試行錯誤して対応しても、状態が変わらないという事は認知症ケアではよくあることだと思います。
    解決方法を提示することはできませんが、ブログでも取り上げさせて頂きます。

  • 初めまして。
    特養で管理栄養士をしていました小川と申します。
    4年制大学の管理栄養士過程での臨地実習がコロナウイルスによる実習受け入れ困難のため校内代替実習として
    学生への講師の依頼を受け、認知症と食事についてを検索していましたところ市村美幸様のサイトにたどり着きました。
    認知症と食事の関係についてとても分かりやすく説明くださっており私自身も再度学ばせていただきました。

    つきましては、学生への資料の一つとして使用させていただいてもよろしいでしょうか?

    宜しくお願い致します。

  • はじめまして。ブログを読んでいただきありがとうございます。
    やはり臨地実習は大変な状況なのですね。お疲れ様です!
    私のブログがお役に立てるのであればとても嬉しいです。
    どうぞお使い下さいませ。

  • 市村幸美様
    快く承諾していただきとても感謝しています。
    本当にありがとうございました。