「嚥下障害をよくするために血圧の薬を飲んでいる人がいます。どうしてですか?」という質問を受けました。血圧の薬はおそらくACE阻害薬のことだと思いますので、今日はそこを説明させて頂きます。
生理学に興味のない方は少し難しく感じるかもしれませんが、できるだけわかりやすく整理したので、最後まで読んでもらえると嬉しいです。「ちょっと文章無理ー」という方は最後に動画をつけているので、そちらを観てもらえると嬉しいです。
それではスタートでーす!
おさえておきたい2つのメカニズム
今回説明するACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)は、血圧を下げる薬ですが、嚥下障害にも効果が期待できる薬だと言われています。少し難しく感じるかもしれませんが、作用機序(しくみ)を整理していきましょう。
ここを理解するには、①ドパミン・サブスタンスPの関係について、②レニンーアンギオテンシンーアルデステロン(RAA)系を理解すると府に落ちると思います。
①ドパミン・サブスタンスPの関係について
嚥下障害では、嚥下反射と咳反射が大きく関係します。この2つの反射は脳によってコントロールされています。この反射は脳内伝達物質のドパミンとサブスタンスPによって調整されています。ドパミンとサブスタンスPが減ると2つの反射が低下します。
脳梗塞などの脳血管障害によって、大脳基底核という部分の神経細胞が障害されるとドパミンが減少します。(ドパミンは黒質−線条体で作られます)
ドパミンが少なくなると、咽頭や気道から出るサブスタンスPが減少し、結果として、嚥下反射と咳反射を低下させます。
大脳基底核に脳血管障害があったり、パーキンソン病やレビー小体型認知症などで嚥下障害が起こりやすくなることにも関係しています。
サブスタンスPの合成や放出を促進,または分解を阻害できれば、嚥下反射と咳反射を促進することができるというわけです。

②レニンーアンギオテンシンーアルドステロン(RAA)系
人間の体には内部環境を一定に保つ働き(ホメオスタシス)がありますが、この働きのひとつに血圧調節や体液・電解質調節をしているレニンーアンギオテンシンーアルドステロン系というシステムがあります。
高血圧とレニンーアンギオテンシン系
まず肝臓で作られ血液中に出たアンジオテンシノーゲンは、腎臓から出ているレニンというホルモンによって、アンジオテンシンIという物質に変化します。その後、アンジオテンシンIはACE(アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシンIIに変換されます。
アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させ血圧を上昇させます。また副腎皮質に作用してアルドステロンを分泌させ、腎臓でのナトリウムや水分を再吸収して血液量を増やし血圧を上昇させます。

ACEを阻害することで結果として血圧が下げる
血圧を上げるのはアンジオテンシンⅡです。アンジオテンシンⅡはアンジオテンシンⅠから作られますが、ACEがなければアンジオテンシンⅡには変化しません。ACE阻害薬はこのACEを阻害することでアンジオテンシンⅡが作られるのを抑え、血圧を下げる作用があります。
ACE阻害薬と嚥下障害との関係
ここまで長かったですね、すいません。では、本題であるなぜ嚥下障害にACE阻害薬が効くのかを説明します。
これにはカリクレイン-キニン(KK)系と呼ばれるシステムが関係します。(ここは複雑なので割愛します)
このシステムに、ブラジキニンという物質が関わるのですが、ブラジキニンは、気管支にある受容体を刺激する作用や、最初にお伝えした2つの反射(嚥下反射・咳反射)に関わるサブスタンスPの放出を促す作用があります。
このブラジキニンはキナーゼⅡという酵素によって分解されます。このキナーゼⅡはACEと同一のものです。(後で同一だとわかったため、呼び方が違うようです)
ですので、ACE阻害薬を服用すると、キナーゼⅡを阻害するため、ブラジキニンやサブスタンスPの分解が抑制されるというしくみになっています。

まとめると、ACE阻害薬はキニナーゼⅡを阻害することによって、サブスタンスPの分解を抑制、誤嚥を予防したり、低下した嚥下機能を改善したりする効果ができる、ということになります。
嚥下障害に対してのACE阻害薬は保険適応外となっています。
動画
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まとめ
どうでしたか?このような用語に慣れない方は難しいと感じたかもしれませんが、このようなことを知っておくと、様々な繋がりがわかるようになります。身体って本当に全て繋がっているので!(だから難しいんですけどね)
鬱陶しがられるのであまり話しませんが(笑)こういう話をするのが実は大好きです♡
生理学講座ではたんまりとお話させて頂きます!