認知症ケアにおける虐待のグレーゾーン

専門職の方々は、「介護施設で高齢者虐待」という報道などに対して、どのように感じているのでしょうか?口には出せないながらも、心のどこかで“正直なところ気持ちがわからなくはない”と思う方も少なくないのではないでしょうか?

報道になるような明らかな虐待は多くはありませんが、現場では「虐待(黒)とはいえないけれど非虐待(白)とも言えない」というグレーゾーンのケアというものが存在します

グレーゾーンのケアとは

誰がみても「虐待」と認識するケア、誰がみても「非虐待」と認識するケア、この間のケアをグレーゾーンのケアと私は呼んでいます。

グレーゾーンのケアの具体例

家族がみていても同じことをするか?

ここに挙げた例は、ほんの一部ですが、思い当たる専門職は少なくないはずです。もし、グレーゾーンがよくわからない、という方がいたら「家族が見ていても同じことをするか?という視点で自分のケアを振り返って見てください。家族が見ていたらやらないな、言わないな、と思うのであれば、そこはグレーゾーンの可能性が高いです。

グレーゾーンのケアはなぜ起こる?

グレーゾーンのケアが起こる背景には、倫理観の不足や仕事に対する慣れ、ストレスなどの個人の問題、また教育体制の問題や人員不足、業務優先の職場体制などの施設や事業の問題などが挙げられます。そして、グレーゾーンを容認する職場の雰囲気です。「このケアはよくない」と自覚しながらも、「忙しいのだから仕方がない」「他のスタッフもやっているのだからいいだろう」ということを言い訳に、誰にも指摘されない、他の人のことを指摘することができない、という負のループに陥ってしまいます。

認知症の人が対象になりやすい理由

グレーゾーンのケアの対象になってしまうのは、認知症の人が圧倒的に多いと感じます。認知機能障害によって思うように業務が進まない、行動・心理症状(BPSD)の負担が大きい、ケアの結果が表面的にみえにくく自分のケアが正しいのかわからなくなるなどが原因となっていると感じます。

グレーゾーンはどうしたらなくなる?

自分が気づく

まずは、「自分がグレーゾーンのケアをしている」ことに気づくことが大切です。自分のケアが白か?グレーか?を意識すると、グレーに敏感になってきます。このグレーゾーンのケアに敏感になり、まずは自分が少しでも白に近いところを目指していくことです。

職場全体の質を上げる

グレーゾーンのケアが職場(施設・事業所・病院など)全体で少なくなっていくと、グレーゾーンのケアをした人が目立つようになってきます。そのような雰囲気が作れるようになると、グレーゾーンは本当に減っていきます。今まで色々な現場を見てきて思うのは、良くも悪くも倫理観は伝染するということです。良い倫理観を伝染させる人になっていきましょう!

まとめ

医療・介護・福祉の専門職は、病気や障害を抱えている人が対象です。いわゆる社会的弱者です。私たち専門職の仕事は、その弱さにつけ込んで自分の思い通りに動かすことができてしまうという怖さがあります。だからこそ、人の弱さに付け込まない、利用しない、という当たり前の倫理観を常に意識していくことが大切だと考えています。

このグレーゾーンのケアについては、著書『心が通い合う認知症ケア』で詳しく書いています。

著書『心が通い合う認知症ケア』

2018年5月16日