新しい時代の認知症ケア③「足し算の認知症ケア」から「引き算の認知症ケア」へ

新しい時代の認知症ケアシリーズの第3回になります。

1回目:BPSDの対応」ではなく「BPSDの予防」が主流になっていく
2回目:「後手の認知症ケア」から「先手の認知症ケア」へ

今回は、「足し算の認知症ケア」から「引き算の認知症ケア」への変化についてお伝えしていこうと思います。以前のブログ記事でも少し触れていますが、今回はもう少し深掘りしていこうと思います。

今までの認知症ケアは「与える」が主流だった

「やってあげる」という考え方

私自身、今までケアは「何かを与えること」だと考えていました。過去の私の言葉で言えば、「やってあげる」という考え方です。私の周りでも、「やらないケア」にシフトしている専門職がいますが、過去の私のような考え方に執着している人がそれ以上に多いのが現実です。

言うまでもなく、与えるケアもたくさんあります。しかし、本人が望んでいない場合は認知症の人にとってただの迷惑行為でしかないと私は思います。

ニーズの不一致が関係をこじらせる

「やってほしくないことを押し付けられる」ということが続くと、信頼関係が崩れます。

先週、妹と買い物に行った際、買おうと思っていた商品ではないものを激推しされ、結果買おうと思っていた商品すら買わずにそのお店を出ました。そして、「もうあのお店には行くまい」と思いました。これと同じことです。

「やることで安心」する専門職

こちらの記事でも書いていますが、何もしない=(イコール)何のケアもしていない、と感じてしまう専門職が多いのだと思います。何かしなければ専門職とはいえないのではないか?という不安を打ち消すために、「とりあえず何かする」という行動に繋がっていると考えています。

現場ではよく言われることですが、自分の自己満足のためにケアをしている人も多いです。

「今日はご飯を全量食べてもらえた」
「数週間ぶりにお風呂に入ってもらうことができた」
「ありがとうと言ってもらえた」

一見いいケアをしていそうな発言でも、ニーズが一致していない場合のこのような発言は正直怪しいです。

自己承認の問題

「やってあげる」の傾向が強い人や、「私、こんなに頑張ってます」アピールが強い人は、そもそも自己承認の部分で問題がある人が多いように感じます。自分が優位に立つことで自分の存在価値を確認しようとする人たちが、この業界に入るとこのような形で現れてしまうのかもしれません。

やらなくていいことはしないケアへ

「やらない=手を抜く」ではない

ニーズが一致しないケアをやらなくなると、身体も心も楽になります。自分が楽だと対応も穏やかになるので、認知症の人も穏やかになります。シンプルな構図です。

楽なので、思わず「私、手を抜いているんじゃないか?!?!」と急に不安に襲われることがあります。ですが、そういうときは「誰のために今私はここにいるのか?」「どうして不安になっているのか?」などを冷静に考えてみてください。

身体に関わる場面で何を優先させていくか

しかし、身体に関わる場面だと自分の不安が強くなるときがあります。

「ご飯食べないと言っているけど、食べないと栄養が・・・」
「お風呂に1ヶ月以上入ってないけど、いいのかな・・・」
「水分全然摂ってないけど脱水にならないかな・・・」

身体に関わる場面こそ、本当に必要なことを考えるときです。「身体のことだから」と言い訳をして、ニーズを無視して執拗に進めるのは、私はケアではないと考えます。これからの時代は、このような場面で何を優先させていくのかということを逃げずに考えていく時代になると私は思います。

気にするべきは職員の目ではなく、認知症の人の反応

自分のケアが正しいのか間違っているのか、わからない場面はたくさんあります。認知症の人のように自己決定や自己選択が難しくなった場合、ついベクトルが自分(専門職側)に向かってしまいます。「専門職として正しいのか」という視点が強くなると、ニーズが不一致になる可能性が高くなります。

また上司や同僚などの目を気にして、不必要なケアをしてしまっている専門職もいます。気持ちはわかります。

でも、自分が今「この人にこのケアは必要ない」と判断し、それで認知症の人が穏やかならば、周りが何と言おうと、自分がどんなに不安になろうと、それが答えです。

答えは、ちゃんと認知症の人が教えてくれます。

動画

短い動画ですが、「やらないケア」について話しています。

まとめ

最初にも書いたように、今までは「与えることがケア」だと考えられてきました。しかし、介護現場を中心に「本人のペース」を重視する傾向になってきています。しかし、記事にも書いたように身体の問題が起こりそうになると、つい本人のニーズを無視したケアに繋がってしまうことが多いです。今後は、そのような場面こそ、何を優先していくかを考えることが専門職の役割になっていくと考えます。